水準測量の基本から最新技術まで!
標高を正確に測る手法とは

水準測量は、地表の標高を正確に測定する測量手法の一つです。これは、既知の標高を持つ水準点を基準に、各地点間の高低差を測定し、新たな水準点の標高を求める作業を指します。
水準測量は、道路や橋梁、ダムなどの設計・施工において、地形の高低差を正確に把握するために不可欠です。また、地盤変動の監視や洪水対策など、防災・減災の観点からも重要な役割を果たしています。
簡単に言えば、水準測量は土地の「標高」を正確に知るための技術であり、私たちの生活基盤を支える重要な作業です。
本コラムでは、初心者にも分かりやすく、役立つ情報を提供しながら、水準測量の基本的な仕組みや、日本での標高基準の決め方、さらに最新の測量技術まで詳しく解説します。

水準測量 作業状況

水準測量とは

「この地点の標高は○○メートル」—— こうした標高の数値はどのように決まるのでしょうか? 山の高さや都市の高低差を測定するために使われるのが水準測量という技術です。ここでは、水準測量の基本や、日本の標高基準の仕組み、そして測量の基準となるジオイドについて詳しく説明します。

水準測量の定義

水準測量とは、既知の標高を持つ基準点をもとに、他の地点との高低差を測定して標高を求める測量手法です。従来の方法では水準儀(レベル)と標尺(スタッフ)を用いた直接水準により測定しますが、近年ではGNSS(全球測位衛星システム)を活用した方法も普及しています。

日本における水準測量の基準

日本の標高の基準は日本水準原点によって決定されています。
これは東京都千代田区永田町に設置され、東京湾平均海面T.P.:Tokyo Peil)から24.3900mの高さに設定されています。国内のすべての標高測定はこの基準をもとに行われます。標高基準が統一されることで、全国の測量結果が一貫したものにできます。

水準測量の仕組み
(出典:国土地理院ウェブサイト)

ジオイドとは

ジオイドとは、平均海面を仮想的に陸地へ延長した面、少しむずかしい言葉を使うと地球の重力による位置エネルギーの等しい面(重力の等ポテンシャル面)と説明されます。
平均海面と聞くと、ジオイドに対して平らなものというイメージを持ちやすいですが、地下構造の違いによって重力の分布が一様ではないため、実際にはジオイドも歪んだ形になっています。

ジオイドとは
(出典:国土地理院ウェブサイト)
ジオイドの歪み
(出典:内閣府宇宙開発戦略推進事務局)

近年、GNSS(全球測位衛星システム)を用いた水準測量が普及してきましたが、この方法では標高を直接測定するのではなく、楕円体高と呼ばれる測位データが得られます。楕円体高とジオイド高の差が標高となります。そのため、GNSSを使用して正確な標高値を得るためには、正確かつ緻密なジオイドモデルが不可欠になります。

日本国内では、国土地理院が行う重力測量や水準測量の結果などから、高精度なジオイドデータが整備され、提供(外部リンク)されています。これにより、GNSSを活用した水準測量の精度が向上し、測量作業の効率化が図られています。

標高と楕円体高の関係
(出典:国土地理院ウェブサイト)

水準測量の主な手法

水準測量には、直接水準測量間接水準測量GNSS水準測量の3つの主要な方法があります。それぞれの手法には独自の特徴と適用条件があり、目的や現場の状況に応じて適切な方法を選択する必要があります。

直接水準測量

特徴: レベル(オートレベル、電子レベル)と標尺を使用して、2点間の高低差を高精度に測定する方法です。精度が非常に高い ため、基準点の設置や公共測量に広く利用されます。一般的に水準測量といえばこの方法を指します。

適用条件: 高精度が求められる場面や、既知点からの距離が比較的短い場合に適しています。ただし、長距離の測定やアクセスが困難な場所では、誤差が蓄積したり、作業効率が低下する可能性があります。

主な用途: 水準点の設置や、建設工事における高さの基準設定など、精度が特に重要な測量に使用されます。

間接水準測量

特徴: トータルステーション などの機器を使用し、2点間の鉛直角斜距離を測定し、三角法を用いて高低差を算出する方法です。直接水準測量に比べて精度はやや劣るものの、広範囲の地形測量やアクセスが難しい場所での測量に適しています。

適用条件: 広いエリアの測量や、直接水準測量が困難な地形で有効です。ただし、精度の要求が高い場合には注意が必要です。

主な用途: 地形図の作成や、広域の地形測量に利用されます。

GNSS水準測量

特徴: GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用した測量方法で、衛星測位により位置情報を取得します。スタティック法と呼ばれる観測形式を用い、一定時間、衛星からの信号を受信してデータを解析し、高低差を測定します。GNSSで得られる高さ(楕円体高)は、ジオイドモデルを用いることで標高(正確な高さ)に変換されます。近年の技術進歩により、国土地理院が提供する高精度ジオイドモデルの活用が可能となり、測量精度が向上しています。この方法は広範囲の測量を効率的に行うことができ、特に既知点が近くに存在しない地域で有効です。

適用条件: 既知点からの距離が6km以上の場合に適用されます。6km未満では直接水準測量の方が精度が高いため、通常は直接水準測量が推奨されます。

主な用途: 既知点が近傍に存在しない地域での水準点設置や、広域インフラ測量に活用されます。ただし、気象条件や衛星の配置など、観測環境に影響を受けるため、事前の計画と確認が重要です。

まとめ

以下に、各手法の特徴と主な用途をまとめます。

手法特徴適用条件主な用途
直接水準測量レベルと標尺を使用し、高低差を高精度に測定。一般に水準測量とは直接水準測量を指す。高精度が求められる場面や、既知点からの距離が短い場合に適する。公共測量における水準点の設置や建設工事の高さ基準設定など、精度が重要な測量
間接水準測量トータルステーションを用いて鉛直角と斜距離を測定し、高さを算出。広範囲の測量に適する。広いエリアや直接水準測量が困難な地形で有効。精度の要求が高い場合は注意。地形図作成や広域の地形変化のモニタリングに利用
GNSS水準測量GNSSを利用し、衛星信号を受信して高低差を測定。広範囲の測量が効率的。既知点から6km以上の距離で適用。既知点からの距離が遠い場合には、高精度かつ高効率。既知点が近くにない地域の水準点設置や広域インフラ測量

水準測量におけるレベルと標尺

水準測量において、高低差を正確に測定するために、レベルと標尺(スタッフ)が使用されます。これらの機器の適切な使用と理解は、測量の精度と信頼性を確保する上で非常に重要です。

水準儀(レベル)

レベルは、視準線(望遠鏡の光軸)を水平に保ち、標尺の目盛を読み取ることで、2点間の高低差を測定するための光学機器です。主に以下の3種類に分類されます。

  • 気泡管レベル:視準線の水平調整を気泡管水準器(気泡管)を用いて行うレベルです。高精度用のものでは、気泡合致式気泡管が使用され、プリズムを利用して気泡管の両端の映像を合致させる構造になっています。これにより、視準線の水平度を高精度に調整できます。
  • オートレベル:内蔵されたコンペンセータ(自動補正装置)により、望遠鏡の多少の傾きに関わらず、視準線を自動的に水平に保つレベルです。これにより、観測者の負担が軽減され、効率的な測定が可能となります。
  • 電子レベル:近年の電子技術の発展により登場したレベルで、コンペンセータと高解像度の電子画像処理機能を備えています。専用のバーコード付き標尺を使用し、電子画像処理によって高さや距離を自動的に読み取ります。観測データをデータコレクタやパソコンに自動入力でき、データ管理や解析が容易です。

標尺(スタッフ)

標尺は、標高を測定するために使用される目盛りが刻まれた棒状の器具です。レベルと組み合わせて使用されます。

近年では、従来の目盛りが刻まれた標尺に代わり、バーコードが印刷されたバーコード標尺が普及しています。このバーコード標尺は、電子レベルと組み合わせることで自動的に読み取りが可能となり、測定の精度向上や作業効率の向上に貢献しています。

従来の標尺には、目盛りが刻まれており、測定者が目視で値を読み取る方式が一般的でした。一方、バーコード標尺は目盛りの代わりに特殊なバーコードパターンが印刷されており、電子レベルがこれを認識して数値を取得します。これにより、読取誤差が減少し、人為的ミスを防ぐことができます。

また、標尺の中でも特に高精度な測量に使用されるのがインバール製標尺です。インバールとは、鉄(Fe)とニッケル(Ni)の合金で、温度変化による膨張や収縮が極めて少ない特性を持っています。そのため、精密な測定が求められる国家基準測量や、高精度な工事測量に使用されます。通常のアルミ製標尺と比べて熱膨張による誤差が少ないため、測定の精度を向上させることができます。

このように、水準標尺は目盛りを直接読み取るタイプと、バーコードをデジタルレベルで読み取るタイプがあり、測定の精度や目的に応じて適切なものが選ばれています。高精度な測量には、温度変化の影響が少ないインバール標尺が使用され、測定の信頼性を高める役割を果たしています。

機器の点検と調整

測量の精度を維持するためには、使用する機器の定期的な点検と調整が不可欠です。観測開始前には、以下の項目について点検・調整を行い、その結果を記録します:

  • 気泡管レベル:円形水準器および主水準器軸と視準線の平行性の点検・調整。
  • 自動レベル、電子レベル:円形水準器および視準線の点検・調整、ならびにコンペンセータの点検。
  • 標尺:付属の水準器の点検。

特に1級および2級水準測量では、観測期間中に10日ごとに点検・調整を行うことが推奨されています。また、機器の検定有効期間は、レベルが1年、標尺が3年と定められています。

これらの機器の適切な使用と定期的な点検・調整を行うことで、水準測量の精度と信頼性を高めることができます。

水準測量の等級

直接水準測量では、目的・要求精度に応じて、1級から4級、さらに簡易水準測量に分類され、それぞれ異なる方法や誤差の許容範囲が設定されています。特に、公共測量や精密な設計を必要とする場面では高精度な水準測量が求められる一方で、簡易な測定が求められる現場では手軽に行える方法が活用されます。本稿では、それぞれの水準測量の違いや用途、誤差の許容範囲について詳しく解説します。

1級水準測量

主な用途

  • ダム・トンネル建設、地殻変動の監視、国家基準点の整備
  • 極めて高精度が求められる測量

規定・許容範囲

  • 標準偏差:1km当たり ±2mm 以下
  • 使用機器1級レベル・1級標尺
  • 視準距離:前視・後視 50m以内
  • 観測方法
    • 1観測は後視-前視-前視-後視の4セット
    • 往復観測必須
    • 気象補正・ジオイド補正必須
    • 厳格な計算手法を適用
    • 標尺の下方20cm以下を読定しない

往復観測での誤差

  • 誤差許容範囲: 2.5mm√S (S :片道距離km)
  • : 片道距離 1km の場合 → 2.5√1 = 2.5mm

2級水準測量

主な用途

  • 河川測量、大規模な土木工事、都市計画の基準点測定

規定・許容範囲

  • 標準偏差:1km当たり ±5mm 以下
  • 使用機器1~2級レベル・1級標尺
  • 視準距離50m以内
  • 観測方法
    • 1観測は後視-後視-前視-前視の4セット
    • 往復観測必須
    • 温度補正は必要、気象補正は簡易的

往復観測での誤差

  • 誤差許容範囲: 5mm√S (S :片道距離km)
  • : 測定距離 1km の場合 → 5√1 = 5mm

3級水準測量

主な用途

  • 道路建設の基準点測定、河川の定期測量、施工管理

規定・許容範囲

  • 標準偏差:1km当たり ±10.0mm 以下
  • 使用機器1~3級レベル・1~2級標尺
  • 視準距離最大60m
  • 観測方法
    • 1観測は後視-前視の2セット
    • 往復観測必須
    • 気象補正は省略可能

往復観測での誤差

  • 誤差許容範囲: 10mm√S (S は片道距離:km)
  • : 測定距離 1km の場合 → 10√1 = 10mm

4級水準測量

主な用途

  • 山間部の道路計画、詳細測量、小規模な測量プロジェクト

規定・許容範囲

  • 標準偏差:1km当たり ±20mm 以下
  • 使用機器1~3級レベル・1~2級標尺
  • 視準距離最大70m程度
  • 観測方法
    • 1観測は後視-前視の2セット
    • 往復観測必須
    • 気象補正は省略可能

往復観測での誤差

  • 誤差許容範囲: 20mm√S (S:片道距離km)
  • : 測定距離 1km の場合 → 20√1 = 20mm

簡易水準測量

主な用途

  • UAV写真測量の基準点設置、地形測量の補助
  • 山地部における縦横断面測量
  • 短期間での測定作業、大まかな標高情報の取得

規定・許容範囲

  • 標準偏差:1km当たり ±40mm 以下
  • 使用機器1~3級レベル・1~2級標尺
  • 視準距離最大100m
  • 観測方法
    • 片道観測のみ
    • 気象補正は不要
    • 簡易計算により標高決定(誤差を許容)

まとめ

水準測量の各等級における観測方法と誤差許容範囲をまとめました。

等級1kmあたりの
標準偏差 (mm)
観測方法視準距離往復観測の誤差
1級水準測量±2mm往復観測50m以内2.5mm√S
2級水準測量±5mm往復観測50m以内5mm√S
3級水準測量±10mm往復観測60m以内10mm√S
4級水準測量±20mm往復観測70m以内20mm√S
簡易水準測量±40mm片道観測100m以内

水準測量の流れ

ここでは直接水準測量の具体的な流れについて詳しく解説します。精度を確保するために、各工程を慎重に行うことが求められます。

作業計画

水準測量を実施する前に、目的に応じた計画を立てる必要があります。具体的な手順は以下の通りです。

  • 測量の目的を明確化:地盤変動調査、施工基準点の設定、道路・橋梁・河川工事の設計用データ収集など、測量の目的を明確にします。
  • 測定経路の選定:既存の水準点を活用しつつ、測定すべきポイントを選定します。測量経路が長距離に及ぶ場合は、誤差を抑えるために適切な間隔で水準点を配置する必要があります。
  • 使用機材の選定:精度要求に応じて使用するレベルと標尺を選定します。
  • 作業計画書の作成:工程スケジュール、必要な人員、測定機器、使用する標尺の種類などを明確にし、測量計画書を作成します。

選点・測量標の設置

正確な測定を行うためには、測定地点の選定と測量標の設置が重要です。

  • 測定地点の選定:測定点は、沈下や移動が少ない安定した場所を選びます。特に、構造物基礎部や地盤の強固な地点が望ましいです。
  • 基準点の確認:国土地理院が設置した既存の水準点が利用可能か確認します。既存点が使えない場合は、新たに測量標を設置します。
  • 測量標の設置:測量の基準となる標尺を安定した場所に固定します。測定中に標尺が動かないよう注意し、地面に埋め込む場合はコンクリート基礎を用いることもあります。

観測

実際の測定作業では、「レベル」と「標尺」を用いて標高差を測定します。測定手順は以下の通りです。

  1. レベルの設置
    • 三脚を安定した地面に設置し、レベルをしっかり固定します。
    • 気泡管を調整し、機器が水平になるようにセッティングします。
  2. 標尺の設置
    • 目標地点に標尺を垂直に立て、測定に適した位置に調整します。
  3. 視準線の調整
    • レベルを覗き込み、標尺の目盛りを確認します。
    • レベルの視準線が完全に水平になっていることを確認し、適切な焦点調整を行います。
  4. 標高差の測定
    • 2つの測定点間で標尺の読み取りを行い、高低差を記録します。

水準計算

測定データをもとに標高を算出し、誤差を最小限に抑えた標高値を求めます。

  1. 高低差の計算
    • 後視(既知点の読み取り値)- 前視(未知点の読み取り値)= 標高差
    • 計算ミスを防ぐため、各測定値を複数回記録し、平均値を算出します。
  2. 誤差の補正
    • 閉合差:水準測量では、起点と終点の誤差をチェックし、閉合誤差が一定の許容範囲内であるか確認します。
    • 補正計算:誤差が生じた場合、均等に補正を行い、最も正確な標高値を求めます。

成果品の作成

水準測量の観測並びに平均計算の結果をまとめて、報告書を作成します。
報告書は、一般的に以下の成果品をもとに纏められます。

  • 平均成果表および観測成果表
  • 点の記
  • 水準路線図
  • 精度管理表
  • 観測手簿
  • 計算簿
  • 測量機器の検定証明書および記録書
  • 測量成果の検定証明書および記録書
  • 測量標設置位置通知書または測量標新旧位置明細書
  • 水準点成果データファイル
  • 品質評価表
  • メタデータ

水準測量の誤差と精度管理

水準測量は、高低差を精密に測定するために欠かせない技術ですが、その精度はさまざまな要因によって左右されます。測量機器の状態や観測者の操作、さらには気象条件まで、測定結果に影響を与える誤差の原因は多岐にわたります。
水準測量において発生しやすい誤差の主な要因を詳しく解説し、それらを最小限に抑えるための対策について紹介します。

水準測量における誤差の主な原因

水準測量では、観測環境や測定機器、人為的要因などの影響を受けて誤差が発生します。主な誤差の原因として、以下の点が挙げられます。

1. 測量機器の誤差

  • 視準線誤差:レベルの視準線と気泡管軸が平行でないことにより生じる誤差
  • 鉛直軸誤差:レベルの鉛直軸が傾いていることによる誤差
  • 機器のキャリブレーション不足:適切な校正を怠ると、測定誤差が蓄積され、結果の信頼性が低下します。

2. 観測者の操作ミス

  • 標尺の読み違い視差:観測者の見間違いや、レベルの焦点が合っていないことによって、標尺の目盛りの読み取り誤差が発生することがあります。
  • レベルの据え付けミス:レベルをしっかり水平に設置しないと、誤った高さの計測につながります。
  • 標尺の傾き:標尺が垂直に立っていないと、実際の高さと異なる値が得られるため、精度が低下します。

3. 気象条件による影響

  • 気温変化による標尺の膨張・収縮:標尺は気温によって長さが変化するため、誤差が生じることがあります。
  • 大気の屈折:強い日差しの下では、地表付近の空気のゆらぎ(陽炎)が観測を不安定にします。
  • 風の影響:強風下では標尺が揺れて正確な測定が困難になります。
  • 三脚の沈下による誤差:地盤が弱い場所では、時間経過とともに三脚が地中に沈下することにより誤差が生じる可能性があります。

誤差を防ぐための精度管理と対策

1. 測量機器の管理

  • 定期的な校正・点検:測量機器の精度を維持するため、定期的に点検・調整を実施する。
  • 使用前後のチェック:測量前後でレベルや標尺の状態を確認し、光学系の汚れやゆがみがないかを点検する。

2. 正確な観測手順の実施

  • 標尺の交互使用:2本の標尺を交互に使用し、観測誤差を相殺することで測定精度を向上させる。
  • 水平調整の徹底:レベルを据え付ける際は、三脚の脚をしっかり固定し、整準ネジを慎重に調整して水平を確保する。
  • 標尺の垂直確認:水準器を用いて標尺がしっかり垂直に立っていることを確認し、傾きによる誤差を防ぐ。
  • 等距離観測の徹底:レベルと前後の標尺の距離を均等にすることにより、視準線誤差や球差を軽減できます。
  • 測定距離の適正化:1回の測定距離を適切な距離(50~70m以内)に抑え、視差や大気の影響を最小限にする。
  • 三脚の向きを固定:レベルを据え付けた三脚の特定の1本の向きを、同一の標尺に対向させるように据付け観測することで、鉛直軸誤差を軽減できます。
  • 強固な地盤面へ据付:三脚の沈下による誤差を防ぐことが出来ます。
  • 標尺の下方20cm以下を読定しない:地表面に近づくほど大気の屈折による誤差が大きくなる。

3. 気象条件に応じた対応

  • 適切な測定時間の選定:大気の影響を受けにくい早朝や夕方に測量を実施することで、陽炎の影響を抑える。
  • 直射日光を避ける:測定時には日傘を使用し、レベルが熱による膨張で精度が低下しないようにする。
  • 風速が高い日は測定を見送る:風が強いと標尺が揺れやすく、正確な読み取りが難しくなるため、無風または微風の日に実施する。

(豆知識)時計で高さを測る!?—可搬型光格子時計—

近年、可搬型光格子時計という技術が開発されました。100億年に1秒しかズレない超高精度な時計です。これは、現在の標準時計(セシウム原子時計)の 約100倍の精度になります。これを使えば、「時間の進み方の違い」から高低差を測定できます。ここでは、時間で高さが分かる理由を詳しく解説していきます。

なぜ時間で高低差が測れるのか?

アインシュタインの 一般相対性理論 によると、重力が強い場所では時間が遅く進み重力が弱い場所では時間が速く進むことが知られています。

🌍 例えば…

  • 標高が低い場所(重力が強い)では、時間がゆっくり進む
  • 標高が高い場所(重力が弱い)では、時間が速く進む

つまり、 「時間の進み方の違い」 を測定することで、重力の大きさ高低差を計算できるのです。

このわずかな時間差でさえも、超高精度な「光格子時計」では観測することが出来ます。

可搬型光格子時計を使った東京スカイツリーの実験

2020年、理化学研究所と東京大学の研究チームが、東京スカイツリーを使ってこの方法を実証しました。

🛠 実験の流れ

  1. 可搬型光格子時計 を地上(1階)と展望台(高さ約450m)に設置しました。
  2. 両地点の 時間の進み方の違い を測定しました。
  3. その時間差を使って 高さを計算しました

🕰 結果

  • 展望台では、地上よりも 1日あたり約4.26ナノ秒(10億分の4.26秒)時間が速く進む ことが確認されました。
  • このデータをもとに計算すると、 スカイツリーの高さは約452.603メートル という結果が得られました。
  • これは、 レーザー測定で得られた高さとほぼ一致しました

つまり、 時計を使って数センチ単位の誤差で高さを測定できることが証明されたのです。

まとめ

水準測量は、標高を正確に測定するための重要な測量技術であり、土木工事、都市計画、防災対策など幅広い分野で活用されています。本コラムでは、水準測量の基本的な仕組み、日本の標高基準、主要な測量手法や使用機器、誤差要因と精度管理のポイントについて詳しく解説しました。

近年では、GNSS水準測量の発展により、従来の直接水準測量と比較して広範囲の測定がより効率的に行えるようになっています。国土地理院による高精度ジオイドモデルの提供により、GNSSを活用した測量の精度も向上しており、今後さらなる活用が期待されます。

一方で、超高精度な可搬型光格子時計を用いた高度計測の研究も進められていますが、現時点では測量への実用化には至っていません。今後の技術発展によって、新たな標高測定の可能性が拓かれるかもしれませんが、現状では水準測量やGNSSを活用した手法が主流となっています。

水準測量の基本をしっかりと理解し、目的に応じた最適な手法を選択することが、正確な測量データの取得につながります。