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地上レーザー測量による差分解析技術とインフラ維持管理への活用
本コラムでは、地上レーザー測量による三次元点群データを用いた差分解析技術が、インフラの変位監視・維持管理にどのように貢献できるのかを概観します。まず、従来の差分解析・変位管理の基本的な考え方と、水準測量やトータルステーション、各種センサ計測といった代表的な手法、その限界について整理します。
そのうえで、当社が地上レーザースキャナで取得した高密度点群を基盤とし、XYZ方向のベクトル変位解析や微小変位の拡大可視化を行う独自技術(NETIS登録技術)の概要を示し、擁壁・地盤・舗装・法面・プラント設備などへの具体的な適用イメージを通じて、インフラ維持管理や防災対策における新たな活用可能性を紹介します。
Contents
従来の差分解析と変位管理の考え方
土木・建設分野における「差分解析」とは、本来、異なる時点で取得した計測値の差から、構造物や地盤の変化量・変位量を評価する考え方を指します。従来は、測量機器や変位計を用いて、代表となる複数点の座標や変位量を継続的に取得し、「前回に比べてどの程度動いたか」を定点で比較する方法が一般的でした。
例えば、橋梁や擁壁の沈下・変位管理においては、水準測量により同一基準点の標高を繰り返し計測し、その差から沈下量を求める手法が広く用いられてきました。また、構造物の相対変位を確認するために、変位計・伸縮計・傾斜計などを設置し、計測時期ごとの値の差分から、変形の進行や傾斜量を把握するケースも多く見られます。
このように従来の差分解析は、主として「離散的な観測点」における数値の差を評価するアプローチであり、限られた測点の情報から全体の変状を推定することが前提となっていました。
従来手法で用いられる主な計測技術
従来の差分解析・変位管理で用いられてきた計測技術としては、主に以下のようなものが挙げられます。
一つは、水準測量です。沈下や隆起といった鉛直方向の変位について、高精度な水準測量を定期的に実施することで、構造物や地盤の高さの変化をミリ単位で把握する手法です。基準点との関係で標高の差分を管理するため、長期モニタリングに適しています。
二つ目は、トータルステーションによる変位測量です。プリズムを構造物上の複数点に設置し、トータルステーションで水平角・鉛直角・距離を測定することで、各点の平面位置・高さを求めます。定期的に同一点を観測し、座標値の差分から水平変位・鉛直変位を算出する手法です。
三つ目は、変位計・ひずみ計・傾斜計などの計測器です。構造物の特定箇所にセンサを設置し、連続的あるいは定期的に変位量やひずみ、傾斜角を記録します。得られた時系列データの差分から、変状の発生や進行を判断します。
これらの手法はいずれも実績が豊富であり、現在も多くの現場で活用されていますが、観測点が限定されるため、「構造物全体としてどのように動いているのか」「面としてどこに変状が集中しているのか」といった、面的かつ直感的な把握には限界がある、という側面も抱えています。
従来手法の課題と限界
従来の差分解析・変位管理手法には、多くの実績がある一方で、インフラの老朽化や維持管理対象の増加といった現状を踏まえると、いくつかの課題や限界も明らかになってきています。
第一に、観測点が点在的であることによる「見落としリスク」です。水準点やプリズム、変位計などは設置箇所が限定されるため、その間に位置する領域の変状は、直接観測されないまま推定に頼らざるを得ません。局所的な変形や、想定外の箇所で発生する変状は、測点配置によっては見逃される可能性があります。
第二に、空間的な全体像の把握が難しいことです。従来手法では、離散的にしか情報を得られず、構造物や地盤の変位を「面」や「立体」として俯瞰することは容易ではありません。図化や解析の手間をかけても、直感的に理解しやすい形での可視化には限界があります。
第三に、効率性と安全性の面での制約です。危険箇所や高所、交通量の多い箇所などでは、測点設置や観測作業自体が大きな負担となります。測点数を増やすことで情報量を補いたくても、安全性や作業コストの観点から、現実的には点数を増やしきれないケースも少なくありません。
これらの課題を背景に、「できる限り面的に・高密度に変位を捉えること」「危険箇所への立ち入りを減らしながら、高精度な差分解析を実現すること」が、次世代の変位監視技術に求められる要件となっています。
当社独自の3D点群差分解析技術(NETIS登録技術)
当社は、こうした課題に対応するため、地上レーザー測量で取得した三次元点群データを基盤とする差分解析技術を独自に開発し、「3Dデータ差分解析による動態観測技術」として国土交通省NETIS(登録番号:KK-250049-A)に登録しています。
本技術では、地上レーザースキャナを用いて対象物を複数時期にわたり計測し、取得した点群データ同士を高精度に位置合わせしたうえで、各点の三次元座標の差分を求めます。これにより、従来は点在的な測点でしか把握できなかった変位情報を、「面」さらには「立体」として、全体的かつ高密度に評価することが可能となります。
さらに、変位量を任意のベクトル成分に分解する機能や、微小変位を数十倍に増幅して表示する機能を備えており、従来手法では捉えきれなかった細かな変状も、視覚的かつ定量的に把握できる点が大きな特長です。
地上レーザースキャナと点群データの活用
当社技術の基盤となるのが、地上レーザースキャナによる三次元点群データです。レーザースキャナは、短時間で周囲を高密度にスキャンし、対象物の形状を数百万点規模の座標データとして取得します。 これにより、構造物や地盤をほぼ「実物と同じ形状」でデジタル空間上に再現することができます。
複数回の計測においては、各時期に取得した点群データを共通の座標系上に統合・レジストレーションすることで、同一空間内で比較可能な点群データを構築します。 そのうえで、同一位置に対応する点同士の座標差を解析することで、対象物の変位量や変位方向を算出します。
点群データを用いる最大の利点は、対象物全体を「面的に」カバーしたうえで差分解析を行えることです。 従来は測点が設置されていなかった部分についても、点群として計測されていれば変位を評価できるため、局所的な変状の見落としリスクを大幅に低減できます。
XYZ方向のベクトル変位解析
当社の3D点群差分解析技術では、単に「距離の差」を算出するだけでなく、変位をX・Y・Z各軸方向に分解したベクトル変位解析を行います。
例えば擁壁を対象とする場合、Z軸方向(鉛直方向)の変位は沈下・隆起や傾斜の評価に、X軸方向(出入り方向)の変位は前傾・後傾や膨らみの評価に、Y軸方向(横ずれ方向)の変位は平行移動・せん断変形の評価に、それぞれ対応します。 このように任意の方向成分を抽出して解析することで、「どの方向にどの程度動いているか」を明確に示すことが可能です。
解析結果は、点群上にベクトル(矢印)として重ねて表示したり、各方向成分ごとにカラーマップとして可視化したりすることができます。 これにより、構造物全体の変位傾向や、局所的に変位が集中している箇所を、一目で把握できる資料を作成することができます。
微小変位の拡大可視化
実務では、数ミリ程度の変位が長期的には重大な変状につながるケースも少なくありません。 しかし、実際の変位量が小さい場合、通常スケールで表示すると変化がほとんど認識できないという問題があります。
当社技術では、検出された変位量を任意倍率で拡大して表示することが可能で、微小な変位でも視覚的に把握しやすい形に変換することができます。 例えば、Z軸方向の変位を10倍・20倍といった倍率で強調表示することで、数ミリの沈下や膨らみであっても、平面図・断面図・三次元図上で明確に確認することができます。
この拡大可視化は、「変位そのものを誇張して見せる」だけでなく、変位の空間分布を直感的に理解するうえでも有効です。 変位が集中している箇所や、緩やかに広がる変形領域を把握することで、補修・補強の優先順位付けやモニタリング方針の検討に役立てることができます。
計測対象別の適用事例(当社独自技術の活用)
以下では、当社の3D点群差分解析技術を、具体的な計測対象ごとにどのように適用できるか、そのイメージを紹介します。 いずれの例においても、「地上レーザースキャナによる高密度点群取得」「XYZ方向のベクトル変位解析」「微小変位の拡大可視化」という特徴を組み合わせて活用します。
擁壁などの構造物
擁壁や土留め構造物では、背面土圧や地下水の影響により、長期的な前傾・膨らみ・沈下が発生することがあります。 当社技術では、擁壁全面を地上レーザースキャンし、定期的に同一範囲の点群データを取得します。 それらを差分解析することで、壁面全体の変位量と変位方向を面的に把握することができます。
具体的には、Z軸方向の変位から沈下や隆起の傾向を、X軸方向の変位から前傾・後傾や膨らみの有無を評価します。 微小変位の拡大表示を併用することで、数ミリ単位の前傾や局所的な膨らみも明確に捉えることができ、危険度評価や補強工の検討に必要な根拠データとして活用可能です。
地盤・舗装面
地盤面や道路・滑走路などの舗装面では、交通荷重や地盤条件の変化により、沈下・隆起・わだち掘れなどの変形が徐々に進行します。 当社の差分解析技術を適用することで、路面全体を高密度点群として取得し、時期の異なるデータを比較することで、どの範囲でどの程度沈下・変形が進んでいるかを面的に把握できます。
特にZ軸方向の変位を抽出すれば、沈下量分布をカラーマップとして表現でき、補修の優先度が高い箇所を直感的に把握できます。 また、変位量を拡大して表示することで、初期段階のわずかな沈下やわだち掘れも視覚的に確認でき、計画的な補修・補強につなげることができます。
法面崩壊・斜面変状
斜面・法面の崩壊現場や、地すべり性状の監視にも、当社の点群差分解析技術は有効です。 災害前後の斜面をレーザースキャンし、点群データ同士を比較することで、崩壊土砂の移動量や崩壊形状を三次元的に把握できます。
また、崩壊に至る前の段階であっても、定期的に斜面を計測し、各時期の点群の差分を解析することで、表層のずり下がりや膨らみといった初期変状を検知できます。 斜面全体に対してXYZ方向のベクトル変位解析を適用すれば、各エリアがどの方向に移動しているかを矢印として示すことができ、不安定化が進んでいる区域を視覚的に抽出できます。 微小な変位を増幅表示することで、崩壊の予兆を早期に捉え、補強工や監視体制の強化など、適切な対策につなげることが可能です。
施工影響評価・出来形確認
トンネル掘削や地下構造物の施工、大規模土工などでは、周辺地盤や既設構造物への影響把握が重要です。 当社技術では、施工前に対象範囲の点群データを取得し、施工中・施工後にも同じ範囲を再計測することで、工事に伴う変位量を三次元的に評価します。
建物や擁壁、道路の変位については、XYZ方向のベクトル解析により、「どの方向にどれだけ動いたのか」を定量的に示すことができます。 また、完成構造物の出来形確認においては、施工後の点群データを設計モデルや設計断面と比較することで、過不足やたわみを面的に評価できます。 これにより、施工品質の確認や補修範囲の特定を効率的に行うことができます。
プラント施設内のタンク等
プラント施設内の大型タンクは、内容物の増減や温度変化、経年劣化に加え、基礎を支持する地盤の不均一な沈下などの影響により、外板がごくわずかに膨らんだり、くびれたりすることがあります。当社の3D点群差分解析技術では、このような外板の変形を「タンクを外周に沿って展開した平面図」の上で評価します。
まず、タンク外板の点群を、円周方向に沿って帯状に展開します。イメージとしては、タンクに巻かれたラベルを一度はがし、横長の一枚のシートとして机の上に広げるような処理です。この平面展開した図の横方向が「タンクのぐるり一周」、縦方向が「タンクの高さ」に対応します。
そのうえで、基準となる円筒形状(初期形状や基準時点の形状)と比較し、タンク半径方向のずれ量を求めます。基準より外側にふくらんだ部分はプラス、内側に入り込んだ部分はマイナスとして、平面展開した図の上に数値として持たせることができます。
当社技術のポイントは、この「半径方向のずれ」をそのまま使うのではなく、10倍・20倍といった任意の倍率で形状として増幅表示できることです。実際の変形は数ミリであっても、展開図上では変位量を拡大した外板形状として描き出すことで、「どの位置で膨らみ(プラス)が強いか」「どこでくびれ(マイナス)が出ているか」を視覚的に把握できます。
増幅表示とカラーマップを組み合わせることで、地盤沈下の影響を含めた変形傾向を早期に把握でき、点検重点箇所の抽出や長期モニタリング方針の検討に役立つ資料として活用いただけます。
まとめ
本コラムでは、まず従来の差分解析・変位管理の考え方と、そのために用いられてきた計測技術、そしてそれらが抱える課題について整理しました。 そのうえで、当社が提供する「3Dデータ差分解析による動態観測技術」(NETIS登録番号:KK-250049-A)として、地上レーザースキャナによる三次元点群データを活用した差分解析の仕組みと特長をご紹介しました。
当社技術は、点群データを基盤とすることで、従来の点的な観測では困難であった、構造物・地盤の変位を面的かつ立体的に把握できることが最大の強みです。 さらに、XYZ方向のベクトル変位解析により変位の方向性まで含めて評価できる点、微小変位の拡大可視化により数ミリ単位の変状も見逃さない点は、実務上大きな価値を持ちます。
擁壁・地盤・舗装・プラント設備・法面崩壊など、さまざまな対象物に対し、当社の3D点群差分解析技術を適用することで、インフラ維持管理や防災対策における「見える化」と「定量評価」を高いレベルで両立させることが可能です。 今後も当社は、三次元測量・解析技術を通じて、安全・安心で持続可能な社会基盤づくりに貢献してまいります。



